サンケア製剤開発における誤り10項目
サンケア製剤開発では、SPF効果、製剤の安定性、美観や使用感のバランスを取ることが重要です。天然(ミネラル)、「ノンナノ」、透明で軽い感触ながら高いSPFの処方に対する需要が増えており、これは処方開発者にとって大きな課題となっています。
すべてのサンケア処方は、安定(保存安定性と光安定性)であり、目指す特性や効果を実現するためにSPFおよびUVAPFの国際基準や規制を満たす必要があります。また、消費者に受け入れられやすく日常的に使いやすい使用感が求められます。
これらすべての要件を満たすことは非常に困難であり、実際、サンケアの処方は化粧品の処方開発の中でも最も難しい分野の一つとして知られ、特に、二酸化チタンや酸化亜鉛を使用した天然成分のサンケア製品を処方する場合には困難を伴うとされています。そこで、皆さんのサンケア開発に役立つよう、弊社ではサンケア処方開発で起こりがちな間違いトップ10をまとめました。
1.最適ではないUV防御剤の選択
処方開発者は、新しい課題には異なるアプローチが必要になる場合があるということに気づかず、使い慣れたUVフィルターや組合せを使い続けることがよくあります。その結果、UVフィルターの選択が最適なものでなくなり、求められる要件を満たすことが困難となる可能性があります。サンケア処方開発の第一歩は、適切なUVフィルターを選択できているかを確認することです。
UVフィルターは、化学的な防御効果を発揮するもの(有機系)や物理的な防御効果を発揮するもの(無機系。二酸化チタン[TiO2]と酸化亜鉛[ZnO]など)があります。それぞれの処方では、望ましいSPF値を達成し、各地域または世界の規制要件を満たすために、広域スペクトルの単一のUVフィルターを使用したり、複数のUVフィルターの組み合わせ使用したりします。組み合わせには、有機系のみのもの、無機系のみのもの、ハイブリッド型と呼ばれることもある組み合わせがあります。
有機系UVフィルターは、白浮きしにくい処方ですが通常はスペクトルが狭いことが多いため、防御効果に関する規制要件を満たすためには様々なUVフィルターを混合する必要があります。なお、アボベンゾンなどの一部の有機系UV防御剤は光に不安定である可能性があります。これは光で分解されるということであり、日焼け止めを2時間ごとに塗布することが推奨される理由の1つとなっています。光安定性は、他のUVフィルター(オクトクリレンやビス-エチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアゾンなど)や他の三重項クエンチャーとの組み合わせによって向上させることが可能です。
TiO2は従来、主にUVBを防ぐために使われてきましたが、現在では、Solaveil™ SpeXtraシリーズのように、より大きな粒子サイズの製品も販売されています。これらの製品はTiO2粒子サイズを大きくすることでUVA防御効果も高めており、単一の有効成分で広範囲のSPFとUVAを保護することができますが、粒子が大きいため白浮きしやすい傾向があります。一方、Solaveil Clarusシリーズなど、より小さい粒形のナノグレードのTiO2は、肌の透明感を大幅に高めてくれますが、主にUVB領域での狭域スペクトルの防御効果が中心になります。また、Solaveil Harmonyのような中間サイズの粒子は、白浮きが少なく、UVA防止効果とのバランスが取れています。
これら2つの製品群やSolaveilシリーズのその他の製品群についての詳細をご覧になりたい場合は、右側にありますSolaveilシリーズの解説画像をチェックしてください。
UVAPFに関する規制要件を満たすためには、ナノTiO2をZnOや有機系UVフィルターと組み合わせることができます。欧州では、UVA防御効果は表示SPF値の3分の1以上でなければなりません。求められるSPF値がUVAPF値よりも大幅に高く、またTiO2の方がZnOよりもUVB防御効果が高いため、ZnOよりも多くのTiO2が必要と思われがちです。しかしZnOはUVA領域だけでなくUVB領域でも防御効果を発揮するため、実際にはそのような必要はありません。弊社のSolaveil ClarusシリーズのTiO2とClarusシリーズのZnOは、9:1(ZnO:TiO2)の比率で組み合わせることでUVA保護の要件を満たすことができます。
性能は常に処方によって異なりますが、求められるSPF値を達成するために必要なUV防御剤の量を決定するためには、理論計算から開始するのがベストです。弊社のSolaveil Calculatorは、処方開発の際によく起こるミスを回避し、目的のSPFを達成するために必要なSolaveil製品の%w/wを決定したり、Solaveil UVフィルターの組み合わせによって達成できるSPFを計算することができます。SPF値は加算的なので、フィルターを組み合わせた場合のSPF値は簡単に算出することができます。ただし、現時点では、このツールでは組み合わせのクリティカル波長やUVAPFを計算することはできず、単一成分のみの計算に限られます。弊社のSolaveil Calculatorについては、右側のリンクからアクセスしてください。
2.無機系UVフィルターとアボベンゾンの組み合わせ
無機系UVフィルターと有機系UVフィルターを組み合わせることは、SPF値の高い処方を費用効率よく実現するための優れた方法ですが、様々な問題も生じる可能性があり、処方開発でよくみられるミスの1つとされています。二酸化チタンは、光安定性の広域スペクトルUVフィルターとしてよく使用され、有機UVフィルターを追加することでさらに効果を高めることができます。UVフィルターの種類を組み合わせると、無機系のみの場合に比べて軽い感触の処方が得られ、有機系のみの場合に比べて、光安定性が高くべたつき感が少なくなります。また、個々の配合上限に達することなくUVフィルターの全体量を高めることが可能です。無機系と有機系UVフィルターの組み合わせることで、UVフィルターの合計性能を上回る相乗効果が得られる場合もあります。Croda BeautyのFormulation ScientistであるBethan Spruceがこの魅力的な組み合わせについての記事(ここで読むことができます)を執筆しました。ただし、アボベンゾンなどの一部の有機系UVフィルターは、TiO2と複合体を形成し、性能には影響しませんが、時間の経過とともに処方が黄色く変色することがあります。
この相互作用を最小限に抑えるために、有機系UVフィルターと無機系UVフィルターを水相と油相に分けて配合し、油相に有機系UVフィルターともにキレート剤(EDTA四ナトリウム塩など)を加えることができます。有効成分を二相に分配するとで、油相または水相だけで使用する場合と比較して、サンケア処方の性能と安定性が向上することも示されています。
ZnOがアボベンゾンを分解してUV保護効果を低下させることを示した研究があります。この相互作用を防ぐために、アボベンゾンを含む処方では、Solaveil MZP7、Solaveil MZP8、Solaveil MZ7-100などのコーティングされたZnOを使用することをお勧めします。
注:米国ではTiO2およびZnOをアボベンゾンと組み合わせることについては規制上の制限があります。
3.ZnOを用いたO/W処方の開発
ZnOは、その天然由来、肌への優しさ、そして透明性から、ますます人気のある有効成分となっています。特に、弊社が最近発売したSolaveil MicNoには、ミクロンサイズでCOSMON認証成分であるという利点もあります。Solaveil MicNoのユニークな板状構造の画像を以下に示します。ここをクリックすると、Solaveil MicNo のCOSMOS承認を受けた分散体についての詳細をご確認頂けます。しかし、ZnOの処方開発は一筋縄ではいかないことがあります。ZnOは水中では一部溶解するため、O/W型エマルションの油相で使用する場合、ZnOは水相に移動する傾向があります。これにより、pHの上昇、ZnOの凝集(ひいては有効性の低下)、エマルションの不安定化が生じる可能性があります。
W/Oエマルションの油相にZnOを用いるのが最善ですが、O/WエマルションにZnOを添加する際には、安定性を改善するためのさまざまな技術が利用できます。
ZnOの選択:
- コーティングされたZnOはZn2+の(水相への)移行を最小限に抑えます。
- 分散剤成分が「in situ」コーティングの役割を果たすZnOの分散体を使用します。
エマルションの選択:
- 界面を強化して移行を抑制するために、疎水性(W/O型)乳化剤を共乳化剤として0.5%~1.5%添加します。
- 電解質の存在下で液晶構造を安定化するために、アニオン界面活性剤を0.2%配合します。
エモリエントの選択:
- 非コーティングZnO粉末には高極性のオイルを使用し、コーティングされたZnO粉末およびZnO分散体には低極性のオイルを使用します。
- プロピレングリコールを油相(3%~5%)に添加します。
増粘剤の選択:
- 移行したZnOの再分散を促し、系を安定化させ、有効性を向上させるために、キサンタンガム(0.1%~0.4%)とケイ酸マグネシウムアルミニウム(0.5%~1.25%)を添加します(水相へのグリコール添加も効果的です)。
- カルボマーを使用する場合、添加前に事前に部分的に中和します。
処方開発のアドバイス:
- 処方をpH 6.5~7.5にバッファー調整します。乳化前に酸を水相に添加することが推奨されます。
- キレート剤を添加すると、Zn2+イオンの錯体化が促進され、相互作用を抑制することができます。
- 他の成分が溶解および/または融解した後、最後に高温の油相にZnOを添加します。ただし、O/Wフォーマットでは、後で添加することは不可能です。
- 油相と水相を混合後にpHを6.0より高く維持します。最終pHはクエン酸で下げることができますが、これを行うのは1回のみとするのがよいでしょう(何度も調節を繰り返すのは避けてください)。
4.乳化剤の選択と適合性
乳液、クリーム、スプレーなどのエマルジョンは、日焼け止めの最も一般的な形態です。これにはいくつかの理由があります。エマルションは、重質成分や油性成分を含んでいても、幅広く上質な使用感を提供します。また、そのレオロジーによって肌の上での適切なフィルムを形成しやすく、効果が高まります。エマルションは多相構造であるため、相容性のない成分を同じ処方内で配合することができ、含水率の高さはコスト削減につながります。
O/W型エマルションでは、一般的に消費者に好まれる軽い使用感が得られ、W/O型に比べて白浮きが少ない傾向があります。一方、W/O型は効果と耐水性に優れていますが、一般的に使用感は重めです。選択した乳化剤系は、使用感と効果の両方に大きな影響を及ぼす可能性があります。カチオン及びアニオン性乳化剤は、無機分散系への配合が困難な場合があり、非イオン性、あるいは少なくともイオン性と非イオン性の複合系が推奨されることに留意する必要があります。
Croda Beautyは幅広い乳化剤を取り揃えており、弊社の乳化剤選択ガイドは皆様の処方開発に役立つ便利なツールです(このページの右側にございます)。
5.粉体の湿潤と乳化に必要な油分の不足
粉体の無機系UVフィルターを使用する場合、処方開発でよくみられるこの問題を回避するために、使用する油の量を考慮することが重要です。安定した製剤を得るためには、親油性のUVフィルター粉体の湿潤させ、懸濁させるために十分な油分が必要です。また、場合によっては乳化や、複合系における有機フィルターの可溶化など、その他の要件にも十分な油分が必要です。
なお、吸油性はTiO2粉体の種類によって大きな差があります。吸油性は主に粒子径と相関しており、粒子径が大きいほど吸油性は低くなります。ただし、コーティングも影響を与えます。そのため、一部のTiO2粉体では、湿潤のために他の粉体よりも多くの油分を必要とします。一定量の無機系UVフィルター粉末に、目的の油を一滴ずつ加えることで、油の吸収量と湿潤に必要な油の量を素早くテストすることができます。吸油性に関する詳細は、このページの右側にある「粉体とエモリエントの適合性に関するプレゼンテーション」でご覧いただけます。
6.固体有機系UVフィルターの溶解不足
固体の有機系UVフィルターは溶解が困難な場合があります。適切なエモリエントを選択することで、最大のSPF効果を確保しながら結晶化を防ぐことができます。必ず関連データシートに記載されているUVフィルターの融点を確認して下さい。例えば、アボベンゾンは完全に溶解し、処方中での最大の効果を発揮するために、83℃以上に加熱する必要があります。
固体の有機UVフィルターに対する溶解性はエモリエントの種類によって異なります。しかし、一般的には、処方中の極性油の量を増やすことで、有機系UVフィルターの溶解性が改善され、効果の向上につながります。
7.UVフィルターの分散不足
無機系UVフィルターには、粉体と分散体が利用可能です。分散体は、金属酸化物粒子を製剤全体に均一に分散させるように設計されており、粉体に比べてSPFの性能や安定性を高めることができます。しかし、粉体を使用することで、美観や「天然」などの特性を実現する際の製剤の柔軟性が大幅に向上します。無機系UV防御剤の分散が不十分であると、SPF性能や安定性の低下、レオロジーの不良、肌に対する白浮きの増加などの問題が生じる可能性があります。
分散体を使用する場合には、撹拌下、適切な相(例えば、油相や水相)に分散体を添加することで、UVフィルターの均等な分散と、均一な製剤を確保に役立ちます。必須ではありませんが、添加前に分散体を振ったり混ぜたりすることで、より良い結果が得られることがあります。単一相の処方の場合は添加後に、エマルションの場合は乳化後にホモジナイズを行うと、UVフィルターの分散とエマルションの液滴サイズの両方が改善され、安定性とSPF性能の向上に役立ちます。
下記の動画では、弊社の処方開発者の1人がSolaveil分散体を使用してスキンケアエマルションを作っている様子が流れます。
分散体を用いた処方開発
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8.増粘剤の水和不足
膜を形成し、有効成分を肌に均一に分布させるためには、サンケア製剤のレオロジーを最適化することが不可欠です。製品は、簡単に広がり、広がった後に元の状態に戻って均一な膜を形成するものでなければなりません。
水相でキサンタンガムやケイ酸マグネシウムアルミニウムなどの親水コロイドを使用すると、エマルジョンを安定させやすく、UVフィルターの分散を助け、SPF効果が向上します。しかし、親水コロイドは、増粘剤が十分に水和していない場合に見られるフィッシュアイ(粉玉)の生成を防ぐために長時間の水和が必要になります。増粘剤をグリセリンに分散させてから、少しずつ水を添加することで、最適な水和を達成しやすくなります。最後に、次の製造工程に進む前に、水相を攪拌して十分に水和させておくことが重要です。
9.顕微鏡検査を考慮しない
不安定な処方は、サンケア製剤の効果に大きなばらつきを引き起こす可能性があります。顕微鏡は性能に影響を及ぼす可能性のある安定性や処方の問題、特に肉眼では見つけることができない問題を特定するためには重要なツールであることから、顕微鏡検査を考慮しないことは処方開発でよく起こるミスの1つです。
無機系の製剤の場合、TiO2およびZnOは顕微鏡下では黒色の粒子や膨化した透明な粒子として観察されます。無機系防UVフィルターのサイズが小さく分散が均一であればあるほど、安定性と最適な効果を達成できる可能性は高くなります。UVフィルターの凝集は、成分の不調和のサインであり、処方の見直しが必要になる場合や、分散が不十分であることを示しています。後者については、ホモジナイゼーション中に追加エネルギーを投入するか、エモリエントを追加して粉体を湿潤させることで簡単に解決できます。
有機系や有機無機複合系の場合、最適な効果を得るためには、固体の有機系UVフィルターを油相で十分に溶解させ、有効期間中に結晶化しないようにすることが重要です。これを確実にするためには、処方の顕微鏡検査を行うことが不可欠です。有機系UVフィルターの結晶(溶解不良または再結晶化による)は、偏光顕微鏡で「針状」の着色結晶として見られることがあります。溶解性は、製剤中のエモリエントの変更や、製造工程で有機UVフィルターの融点以上に加熱することによって、改善できます。
10.規制要件に従って添加をしない
日焼け止めの規制要件は世界中で様々であり、製品はその販売予定地域の規制に基づいて製造される必要があります。ほとんどの地域では、既承認成分の厳密なリストによって規制されており、そのリストにない成分は使用できません。すべての地域にはUVフィルターの最大配合限度が定められており、地域によってはUVフィルターの特定の組み合わせに対して制限が設けられています(例えば、米国ではTiO2とアボベンゾンの組み合わせは使用できません)。UVフィルターの承認、SPF試験要件と表示に関して、関連地域の規制要件を調査することが不可欠です。
環境保護の観点から、有機系UVフィルターに対する規制圧力は高まりつつあり、特にサンゴ礁の保護を望む地域においては一部の有機UVフィルターが禁止されています。さらに、有機系日焼け止めは、肌への浸透性が慎重に調査されており、FDAは、有機系成分については安全性の懸念は特定されていないものの、既存のエビデンスでは、有機系成分は肌から吸収されているか、その可能性があることが示唆されており、この吸収による影響についてはデータが不足していると述べています。そのため、肌にほとんど浸透しないTiO2やZnOは、安全な選択肢となります。これらの成分は世界中で承認されており、禁止対象となっておらず、一般的に安全かつ有効(GRASEカテゴリー1)と認められています。
さて、サンケア処方開発で起こりがちな間違いトップ10はここで終わりとなります。これらの間違いをすべて回避できれば、皆様の処方は高性能で、安全かつ安定で、肌に使用したときに心地の良い使用感と優れた美観を実現できるでしょう。このブログで取り上げたトピックについて詳細情報をお望みの場合やサンケアの開発へのサポートをお求めの場合は、ご遠慮なく弊社までお問い合わせください。弊社営業担当者が皆様の分野における処方専門家にご紹介いたします。